ソルティア

SOLTIAコラム
WORLD 》Vol.3

第3回は「パリ編②」

世界各地の日常をレポートする「SOLTIAコラム《WORLD》」。
「パリ」編のレポーターはフランス在住の日本人アーティスト・風間明日馨(かざまあすか)さんです。パリ編②ではアーティストならではの視点で、「芸術の都・パリ」のアートシーンをご紹介します。

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1.「シャンゼリゼ通り」(油彩画)​ ©Asuka Kazama

風間明日馨のパリレポート、今回は「パリのアート事情」。パリを拠点にアーティストとして活動しているからこそ実感する、環境問題がもたらすアートシーンの変化についてお伝えします。

アートやデザインの世界も変化​

前回のレポートでご紹介したパリ市民の環境意識の高まりは、アートやデザインの世界にも変化をもたらしています。有名モードブランドの店頭にはゴリラや林檎のオブジェが飾られ、自然や動物への回帰を想起させるディスプレイも目立ちます。「エコロジーはカッコいい」と捉えられているようです。

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2.建築家・安藤忠雄氏が改装を手がけた、​新美術館「ピノー・コレクション」では、木をモチーフにした展示を開催。​

日本にも古くから伝わる「万物に霊魂が宿っている」というアニミズムが、パリ市民にも広がり始めています。

「ピノー・コレクション」というパリの最新アートの発信基地には木を題材にしたオブジェが飾られているのですが、そこに自然美を慈しむ、日本の文化や精神との共通点を感じます。ロックダウンされた街で木や動物たちがのびのびと生きている姿を見て、人と触れ合うことの大切さや自然の偉大さを再認識したのかもしれません。​

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3.ロックダウンで​無人になったパリの街。
3.ロックダウンで​無人になったパリの街。

「人間が自然を支配している」という感覚から​
「人間も自然の一部である」という感覚へ

前日本を離れて9年が過ぎた頃、私はよく、ストラスブールの路上で風景をスケッチしていました。雨が降ってきても雨粒を全身に受け止めながら絵を描き続けるうちに、雨の滲みを作品に採り入れる手法を編み出したのですが、その様子を見た大学の先生から、「君は雨と戦っているのか?」と尋ねられたことが​あります。

そのとき私は、「人間も自然の一部なのです。戦っているわけではありません」と答え、日本文化に根差す「無我夢中の精神(自分を無にすること)」について説明しましたが、うまく伝わりませんでした。大学院の卒業論文でも「竹を描くには竹にならないといけない」という無の境地を伝えようと試みましたが、こちらも難航。西洋人と日本人の自然に対する意識の差を実感しました。​

それが今、フランス人の心に、自然との調和を求める、日本的な精神や価値観が根付き始めています。私はそれを、とてもうれしい変化と受け止めています。

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4.路上スケッチに熱中していたストラスブールの学生時代。​

最近私は、無意識に線を描くことが多くなりました。そこには幼い頃に習っていた書道の影響があり、自分が日本の魂を持っていることを強く自覚しています。

これからも私は、パリで活動するアーティストとして、日本人が持つ自然に対する謙虚さや畏敬の念を忘れず、地球の未来を見つめながら、自然と動物愛護をテーマにした作品を創り続けていきたいと考えています。​

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5.高級車ディーラーに展示されている自身の作品「クルトゥノーの嵐」の前で記念撮影。「クルトゥノーの嵐」©Asuka Kazama

「芸術の都」にふさわしい、
個性豊かな画廊​

膨大なコレクションを誇る「ルーヴル美術館」をはじめ、「芸術の都」として名高いパリ。その中心部にある画廊では、有名なアーティストの作品が数多く展示されています。画廊にはそれぞれ独自の個性や経営方針があり、趣味や方向性も異なるため、実に多彩なアートがあふれているのもパリならでは。じっくり時間をかけて廻れば、コスモポリタンで個性豊かなアートやユニークな人たちに出会えます。

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6.作品を委託販売​してもらっている​「コワンデザール画廊​マレ本店」。​観光客にも人気。

7.最近の作品。気候変動により雨が激しく降ることも多くなり、​屋外で描くことはなくなった。​
「コアラルイスへのオマージュ」(水彩画)​
©Asuka Kazama

2024年12月の再開を目指し、「ノートルダム寺院」の再建も進んでいます。皆さんがパリを訪れる機会があるなら、ガイドブックに載っていないような小さな美術館や画廊、カフェなどを訪れてみてください。そして、さまざまな人たちと出会い、気軽に声をかけてみてください。きっとその一つひとつが、あなたの大切な旅の思い出になるはずです。

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8.火災からの再建工事が進む「ノートルダム寺院」。​
9.年に一度、パリのサンジェルマン​デプレで開催される​「詩」や「詩の本」を​販売するマルシェ。
8.火災からの再建工事が進む「ノートルダム寺院」。
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9.年に一度、パリのサンジェルマン​デプレで開催される​「詩」や「詩の本」を​販売するマルシェ。
1980年東京生まれ。2003年共立女子大学仏文コース卒業後、広告代理店勤務を経て、
2007年ストラスブール大学デザイン科卒業。2010年HEARストラスブールアート科造形美術学士卒業。
2014年ストラスブール大学造形美術大学院卒業。
2012年ストラスブール美術館とアートの協会が主催する「テオフィルシュラー賞」を受賞。
近作としては、夢で見た動物と人間の中間的な生物の姿を描いた架空の生き物のシリーズを創作。
2023年11月には「国際現代アートスタート展」においてストラスブール美術館とアート協会の枠で作品を展示予定。 風間明日馨 ホームページ asukakazama.net